(問題の制度設計・・・9)
この事例に「問題の制度設計」を当てはめると、賦課された重加算税は税理士が「十分な情報収集」を行わなかったゆえ税理士が負担することになるだろう。
しかし世の中の現実は単純ではない。
本事例では、現金売上を除外して机の引出しに入れることは社長と工場長夫妻の間では合意があったと裁決書からは読取れる。除外された金額は1700万円と税務調査で分かったが果たして本当に1700万円なのか。
(この裁決例では以上に述べた事実を超える内容は明らかではないので、此処からは、この事例を検討の題材として使用する。審判所で争われた事例からは離れる。関係ないことをお断りしておく)
世間でよくある事件を当てはめてみる。
(法人の組織の階層と税務申告に表れた「意思」の存在する場所)
工場長が日常実務をしているから工場長はXXXX万円を引出しに隠し、工場長の妻は工場長に内緒でXXXX−Y=ZZZZ万円の金額が隠匿額と考える余地はある。
社長の認識ではWWWW万円の売上を除外したつもりが工場長の手でXXXX万円に減少し、最後は工場長の妻が抜き取ってZZZZ万円になることも考えられる。WWWW>XXXX>ZZZZである。本事例ではZZZZすら税理士は知らされていない。
零細企業で夫が代表者で妻が経理を担当しているケースで夫に内緒で妻が売上から抜き取るケースは稀にある。
芸能人や力士の脱税では「税理士にすべて任せてあった、ワタシは知らない」との答えはメディア報道の定型である。しかしこの場合、芸能人や力士がゼイキンの処理方法を自分で画策することは考え難い。プロダクションや秘書が芸能人などから委任される場合や、一任されているうちに出来心が生じる場合も想定できる。そこへコンサルタントが介入した結果の金額が「先生この金額で申告をお願いします」との口上で確定申告書の作成を依頼されるのではないだろうか。
<次回予告>
納税者の意志が税理士にストレートに伝わる(単純な)例であれば税理士が「十分な情報収集」をしなかったことが原因で税理士に加算税を賦課する論理はあり得ないではない(後述するが「税」を納税者本人に賦課しないで国の手で税理士課税に転換することは税を負担する者を勝手に変更することになり別の問題がある。税理士が悪質な処理をしたのなら税理士には税理士法での制裁と依頼者からの損害賠償が待っている。ここで償いは済むところ、国が「本来の納税者の加算税を免除し、同額を税理士に付け替え新たな納税義務者を「創造」することが問題になる。