(問題の制度設計・・・まとめ4)
3番目の疑問点
納税額の過不足は最後は会社経理に反映される。会社経理の主人公こそが重加算税負担の原因を作った人物ではないか、税理士は主人公か?
このことにつき結論を示し、次にその理由を書く。
結論:税理士は、会社経営の物語を紡ぐ経理の主人公ではない。重加算税を負担するのは主人公である納税者法人である。
理由:会社の経理は会社がした行為に含まれる意志の集約である。意思は仕訳を通じて1、利潤計算の側面と2、会社財産(財政状態)の側面の2面で示される。1は事業年度ごとに計算され2の貸借対照表に累積的に反映する。
申告書に過不足があることが判明した場合「過」の部分も「不足」の部分も終局は貸借対照表に集約される。そもそも当初の申告内容も、税務調査で明らかになった過不足も含め会社経理には会社の森羅万象が記録され、これらの実在を示す貸借対照表の中味は会社に帰属する。
税理士の立ち位置は委任を受けて申告の代理をした立場である。会社経理が示す資本の活動の外にいる。会社資本の活動を仮装隠蔽して不正経理をした結果、重加算税が賦課されることになっても行政制裁を受けるのは資本の活動を行った主人公であり、外側に居る代理人が課される筋合いはない。
税理士が記帳代行していた場合も引き取ったデータが不正である場合は、引取データを保存することで、税理士が手を加えていない事実を証明できれば免責になる。
(会計の面から加算税に注意する点)
会社において加算税が課される場合には裁決例の売上除外のような派手なもの以外に事業年度ごとの収益や費用の帰属や引渡基準の適用などが原因で加算税が課される場合もある。基礎になる公正会計基準は相対的真実性を求めるため、慣習や見解の相違で加算税が課される場合もある。加算税を税理士に付替え課税すると依頼者と税理士との紛争が多発する誘因にもなる。
以上を防止するには税理士法33条の2の「添付書面」を使用することが税理士として最上の道である。納税者のレベルが多岐にわたる中で最も有効である。この書面には「提示を受けた帳簿種類」「計算し整理した主な事項」「相談に応じた事項」が備わっているため税理士の業務の最初からの一連の詳細が記されることになる。徹底することで不服申立や訴訟などの多発は防げるのではないだろうか。
題材にした裁決例の税理士がこの書面を作成すれば、預かった資料には現金売上に関するものはなかったことが明白になり、納税者法人に、不服審判所にて「現金売上が申告で洩れていたのは、税の専門家である関与税理士が(中略)説明や指導を十分行わなかったことによるものであって、その責めを経営者に負わせるのは酷である。」などの本末転倒の言い方をされることは防げたと考える。
また税理士法35条1項並びに2項で、調査前と更正前に税務調査官に対して、国税不服審判所では審判官に対して、意見を述べる機会が与えられたのである。もっとも仮払金を勝手に売上原価に振替えたり、売上を勝手に追加計上した点を記することは躊躇したかもしれない。
(「別の制度設計」に関して)
別の大学教授が「税理士による不正事実通報制度の創設」を雑誌にて提案されている。この提案内容は税理士に課せられた守秘義務に反するだけでなく、納税者と税理士の関係に不要な楔を打ち込むだけである。裁決例にあてはめれば、この税理士は納税者法人が1700万円の売上を除外していることは知らないので、このような通報制度が実施されても通報しようがない。この制度の効果はない。カラ舞いである。むしろこの納税者法人のようなワルサをする「普通の納税者」に税理士への警戒感を植え付けニセ税理士に走らせることになるように思う。
これまで検討してきた「問題の制度設計」は納税者が税理士を試そうとする姿勢への視点が欠けていたが「別の制度設計」は税理士を税務署の予備ないし補助機関化しかねない点に問題がある。通報義務が課せられる税理士には「納税者への検査権」も備わらないと機能しない、がこうなれば将に補助機関である。税理士が税務署と同じ位置に立てば、納税者の回りは徴税機関ばかりで、いったい誰を頼りに自分の申告相談をすれば良いのか困ることになりはしないか。
税金は、いろいろな納税者の生活に密接に絡みつくゆえに、人間の多面性や究極の本性が垣間見える。ナマの納税者に接しない立場からの「制度提案」であっても、世間の、市井の人々の暮らしへの視点も要るのではないだろうか。納税者から「試される」税理士ではなく、信頼を得た代理人である税理士と税務署の間で納税者への適正な課税額を巡って相互チェックしてゆくのが妥当と思う。<完>
今回でこのシリーズは完結しました。お読みいただきありがとうございました。
<予告篇>・・・「数字が語る事業の潮時、変わり時」・・・
しばらくお休みをいただき7月31日から始めます。コロナで世の中が急速に、しかも世界的に変わってゆくのが日々実感できます。欲望を制御できないまま走ってきた反動が始まると思います。この影響が税や会計の面にどのように現われてくるのかに焦点を当てます。
・コロナの影響:罹れば200人に一人が死にます
・景気の下落:特にアメリカ経済の負の影響がじわじわと波及
・中小企業は良質の人材確保が困難に、雇用から崩れてゆく
・政府債務の対GDP比upから円の信認低下、貨幣価値下落、実質賃金下落の先は、もっと粗利率低下
・金利上昇は国債原因よりリバーサル・レートが契機になり借入体質企業を直撃
避けることは
1・破産に追い込まれないこと
2・事業を「やめるにやめられない状態」に陥らないこと
3・流れが速い中、スグ色あせる事業内容、ヒトの目気にして拡張拡大する時代ではない
4・できれば早期に縮小化または廃業したほうが傷は浅い
目の付け所
・手始めは事業のサビ落とし、白蟻(内部不正)の有無チェックと払い過ぎの税金の取戻し
・「こんな兆候」が数字に出たら黄信号、こうなったら赤信号